“集中できない”を前提にする。プレセナの兼務体制と、それを回す6つの工夫

はじめに

プレセナでエンジニア組織のマネージャーを担当している桜井です。
アドベントカレンダーのDay10として、プレセナで前提になっている「兼務体制」について書きます。

プレセナは「全社員が特定の役割だけを持たない、兼務前提の会社」です。エンジニアも一つのプロダクトに閉じず、複数の開発組織、場合によっては開発以外の組織にも所属しながら働いています。

こう聞くと、「それ、集中できなくない?」 と思うのではないでしょうか?
まさにその通りで、兼務には集中の分断や切り替えコストといった難しさがあります。

だからこそ私たちは、兼務を“勢いと気合いで回すもの”にはしません。
デメリットがある前提で、仕組みと文化で補い、むしろ強みに変えていく。
この記事では、兼務の狙いと現場の姿、そしてそれを成立させるための工夫を紹介します。

兼務が前提の会社で、エンジニアも越境する

私たちの兼務体制の特徴は、越境の幅がかなり広いことです。 複数のプロダクトに関わるのはもちろん、開発の外側の組織と兼務するケースも珍しくありません。

例えば、エンジニアの兼務の姿はこんな感じです。

  • エンジニアAさん
    社内の基幹システム開発に軸足を置きつつ、経理部門にも所属し、売上管理の業務も担当
  • エンジニアBさん
    LMS(ラーニングマネジメントシステム)のプロダクトエンジニアとして開発に携わりながら、グローバル拠点間コミュニケーション推進の部署にも所属。社内のグローバル交流イベントの司会役もこなす
  • エンジニアCさん
    R&Dチームで新しいIT技術を研究しつつ、eラーニングのマーケティング企画に携わる
  • エンジニアDさん
    基幹システム保守を担いながら、情報セキュリティ部門のリーダーとしてISMS等の認定監査の運営を取り仕切る
  • エンジニアEさん
    情報システム部員として社内アカウント管理をまとめつつ、人事部署で労務・給与計算の業務も担当しながらITによる業務効率化も推進

「エンジニアの守備範囲、広いな…」と感じる方もいるかもしれません。実際、越境するほど運用は難しくなります。

でもうまく機能した時のリターンも大きいです。作る側と使う側の距離が近づいて実装が現場の実態に寄りやすくなり、プロダクトだけでなく業務の理解も深まります。
例えば基幹システムの売上計上まわりの仕様決定に悩んだ場合でも、Aさんが居ることで経理側の見解を即座に反映できますし、エンジニアチームの経理ノウハウも日々育っていきます。

ただし、そういうリターンは自然に発生するわけではありません。うまく回すための思想と設計があります。

なぜこんなことをするのか

兼務体制の背景には、会社としての考え方があります。

一つは、「セクショナリズムをなくしたい」という思いです。
役割や組織の境界が強くなると、どうしても部分最適に閉じてしまいます。プレセナはそれを避け、会社全体として価値を出す方向に寄せたいと考えてきました。
(詳しくは採用サイトの記事でも紹介しています)

もう一つは、プレセナが掲げる「総自前主義」との相性です。
事業のバリューチェーンを自前で取り揃え、価値創出のサイクルを社内で回し続ける。この発想を前提にすると、専任で分断するより、越境しながらつないでいくほうが“最終的には効率が高い”と私たちは考えています。
(こちらも採用サイトの記事で紹介しています)

こうした「内部越境」の価値や背景については、アドベントカレンダーDay14の記事でも扱われる予定です。視点の違う話が読めると思うので、公開されたら是非そちらも読んでもらえると嬉しいです。

しかし当然、デメリットもある

ここは正直に書きます。

兼務にはまず、集中の難しさがあります。
複数の組織やプロダクトを行き来する以上、コンテキストスイッチは避けられません。集中して取り組みたい局面でも、別部署側の急ぎの仕事が入ることはあります。

そして、工数の読みづらさも出やすいです。
兼務が前提だと、部署単位で専任リソースが固定されません。全体最適のためには必要な性質ですが、運用面の難度は上がります。

こうしたことから、兼務体制は“放っておくと崩れる”仕組みと言えます。

デメリットを打ち消し、強みに変えるための施策

まず全社としての仕組み

兼務を支えるのはエンジニア組織だけではありません。 会社全体としても、いくつかの土台があります。

  • 各部署代表が集まるリソース調整会議
    兼務でリソースが流動化する前提で、「会社として今どこに力を寄せるべきか」を継続的にすり合わせます。
  • 柔軟な給与制度(インセンティブ制度)
    会社が社員に「いまどの方向に力を向けてほしいか」という経営メッセージを示し、その方向性に協力してくれる人の報酬が上がる設計です。メッセージと制度は環境に応じて柔軟に変化させています。社内で全員の給与明細を公開するなど透明性と納得度を担保することで会社からのメッセージを着実に社員に届け、兼務体制でも適切にリソースをコントロールしています。
    (こちらも採用サイトの記事で紹介しています)

「兼務って揺らぐよね」という前提を、会社側がきちんと受け止めている形です。
その上で、エンジニア組織としての工夫があります。

エンジニア組織の6つの工夫

兼務体制を成立させるための施策の全体像

兼務のデメリットを前提にする以上、必要なのは「気合い」ではなく設計です。
プレセナのエンジニア組織では、経営方針と現場の“縦のつながり”、組織が分かれても知識や状況を巡らせる“横のつながり”、個人が自律的に動くための“基盤”の3つを意識して、施策を積み重ねてきました。
以下、それぞれの取り組みを順に紹介します。

1. 経営方針を踏まえた上位方針の策定

社会や技術の流れは速く、会社のフェーズも移り変わっていきます。
経営方針の変化を活動にすぐ反映できるよう、短期的な上位方針を随時策定して共有しています。

直近では「価値にこだわる」を掲げました。
これまでは「バリバリ作ってリリースする」ことを優先してきた面がありましたが、AIの台頭で開発環境の前提が変わり、また会社のフェーズも進んで社会的責任も増してきました。
今だからこそ価値を見直し、エンジニアリングにちゃんと反映しよう、という意識合わせをしました。

2. リソースアサイン状況の見える化

各メンバーのリソース比率は基本的に個人裁量に任せています。
自律的に価値ある動きができることを目指しているためです。

ただ、裁量だけだと偏りが出ます。そこで月に一度、「どの組織に/どんな役割で/何%くらいの工数割合を割くか」を宣言してもらい、組織として集計します。その値を見ながら、会社の方針とズレがないかを確認し、必要があれば調整します。

“自由を守るための見える化”という感覚が近いかもしれません。

3. 隔週の情報共有会

兼務で組織が分かれている以上、放っておくとサイロ化します。
そこで2週に一度、エンジニア全員が集まる情報共有会を設けています。

各組織のホットトピック、リリース内容、困りごとなどを共有し、
「それ、うちにも活かせそう」
「その困りごと、前に別チームで経験してたはず」
といったやり取りを通して、横の学びと状況理解をつないでいます。

4. ローテーション制度

2の個人内のリソース比率調整だけではなく、組織間のメンバーローテーションも行っています。

狙いは、

  • ノウハウの属人化回避
  • 技術領域や立場を複数経験することによる視野の拡大
  • 変化に合わせた柔軟な再配置

です。

日頃からメンバーを循環させておくことで、急なリソース変動が起きても組織として無理なく対応できるようにしています。

5. プレセナエンジニア5ヶ条の制定

兼務で現場が分散するからこそ、「同じ会社のエンジニアとして何を大切にするか」は揃えておきたいと考えました。

過去エンジニアが数名だった頃に「プレセナエンジニア17ヶ条」を定めましたが、時が経ちメンバーも20名を超え、「数が多すぎて全員が同じレベルで日頃から意識するのは難しい」という話になり、全員で議論し直して5ヶ条として再制定しました。

プレセナエンジニア5ヶ条

プレセナのエンジニアとしての価値観が共有され、色々な議論がスムーズになりました。
またエンジニア組織での重要な意思決定や、採用判断の場面でも活用しています。

6. 振り返り(改善し続ける)

どんな施策や制度も、続けていると実態とズレたり、運用コストが増えたりします。
そのため、各施策について定期的に振り返り、改善を重ねています。

例えば3.の情報共有会は、以前は一度の共有会で2時間近くかかることもありましたが、Google Docsのコメントを活用して非同期化し、今は30分前後に短縮できています。
5. についても毎月少しの時間をかけて5ヶ条に沿った活動振り返りをし、メンバー同士で共有しています。
兼務で散らばっているからこそ、意識合わせの面でも“定期メンテナンス”が必要だと考えています。

まとめ

兼務体制には、集中の難しさや工数管理の難しさなど、うまくいかないことが確かにあります。
しかしプレセナでは、それを前提として全社とエンジニア組織の両面で設計を積み上げてきました。

経営方針とエンジニアの“縦のつながり”、
エンジニア同士の“横のつながり”、
そして個人の自律性を生む"基盤"。
それぞれが無理なく機能するよう、仕組みと文化の両方で支えています。

また、この体制はエンジニアだけで完結するものではありません。
兼務の前提を理解し、リソース調整や業務の受け渡しに協力してくれる社内の各部署の存在があって初めて成り立っています。日々支えてもらっていることに、改めて感謝しています。

まだ改善の途中ですし、これからも見直し続けます。
越境や兼務という働き方が、会社全体の価値につながる形で根付くよう、エンジニア組織としてもアップデートを重ねていきたいと思っています。